ヒトはなぜ子育てに悩むのか〜サル学の正高先生による子育て論考
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    正高信男先生の講義を大学生のときに聴講したことがある。サル学の内容だった。ぼく自身が父親になって育児書を漁っているときに、その正高先生が育児の本を出されていることを知って驚いた。たしかに、サルの母子に関する研究の話題もされていた記憶があった。

    先生の著書をいくつか読む。育児書として読めなくはないけど、やはり基本は動物行動学の本である。学術書の体裁であるから、逆に、著者の思想や思い入れが入り過ぎず、客観的に理解が深まりやすい。



    (「ヒトはなぜ子育てに悩むのか」より)
    少なくとも日本の大半のおとなに関する限り、とかく子どもへの思い入れが強くなりすぎる傾向があるのではないかというのが、常日頃の私の率直な感想であった。思い入れが強いので、ついつい自分自身の感情移入が激しくなってゆく。自分が良いと信ずることは無条件に、子どもに受け容れられるものと決めてかかっているふしがある。

    もっとドライになれたならば、近年話題になっているような、子が成長したのちも「子離れ」できない親と言うのも、なくなるのではないだろうか・・そんな感想を文章にしたら、こういう本ができあがった次第である。

    ひと昔前に比べて、最近では男も子育てに加わるようになったといっても、たとえば結婚前の都会派の男性には、赤ちゃんの養育に関わることへのためらいが、潜在的にも顕在的にも強く見られる。

    人類の歴史をみれば、父親も育児に携わっていた期間のほうが、圧倒的に長いのだ。しかも父親にしかできない役目をになっていた。ところが、社会が産業化され、賃金労働に従事するにつれて子育てから遠ざかって行ってしまった。ひっきょう育児の負担は、母親だけがかぶることになる。わずか300年余りの間に男性が得た育児従事免除の恩典が、急速に進行する都市部の母親の孤立化に一役買っていることもまた、まごうことない事実なのである。

    女性は自分に子どもができると、生物学的に不自然な育ちかたを自身がしていないかぎり、ほとんど不可逆的に子どもに関わろうと努める。一方、男性はというと、父親は本質的に「機械主義者」としてたちまわるのではないだろうか。機械主義者というのは、opportunistの訳語のつもりである。自分が「やるぞ!」と思ったときしか、やらない。ただ、やる気が起きたならば、育児語が出てくるという双方の結びつきは、やはり遺伝的に備わっている。


    (「父親力」より)
    父性と父親は同義ではない。母性も父性も、養育する者の子に対する役割の違いをあらわし、母親が父性を発揮することもあるし、逆も起こりうる。またひとりの人物が両方を担当するケースも存在する。いずれの場合でも、母性は子にとっての安全基地のような働き方をするが、いつまでもそこにとどまっているばかりでは、物事が新たな展開をみないのは明らかである。

    男性の話す育児語は女性のそれとは違った役割を果たしていることが明らかになってきている。声をことさら高く、抑揚を大抑にすることには子どもとのコミュニケーションをはかるうえで大切な機能があるのだが、それが男性と女性では異なることが判明したのだ。しかも、この差異がもっとも如実に反映され、育児語が大活躍するのが、絵本を読み聞かせる場面なのであり、かつ怪獣やオバケを題材とした絵本は、男性の声で読んでやると効果テキメンなのである。具体的には『かいじゅうたちのいるところ』が、そうした絵本の代表例ということになる。

    どうして家事に熱心に関わる父親と、そうでない父親ができるのだろうか。そう思って各父親に、今度は自分が過去に親からどういう養育を受けたのかを尋ねてみることにした。(中略)すると、家事に積極的である父親の父親というのは必ず息子のような生活態度ではなかったことが判明した。正の相関がみられないのである。それどころか、負の相関を示す。

    父親的な養育の要素というものが子どもの社会化に大切であるといっても、ただやみくもに夫が「もう一人の母親」として妻とともに子育てに励むことで達成されるものではない。

    「そうではないよ。世の中にはお母さんが大切と感じるものより、はるかに多様な価値があり、周囲はおまえにもっといろいろな期待をする可能性があるのだ」と、安全基地の外へ目を向けさせるチャンスと、とれなくもないはずなのである。

    母性が子どもにとって安心してくつろげる居場所を提供する役目を果たすのに対し、父性は居場所の外へ連れ出す仕事を果たさなければならないのだが、その課題がもっぱらこの親にかかってきている。だから何はともあれ、子どもが自分たちと教師以外の社会人と接する機会を出来るだけ多く持つように親は心がけるべきだろう。


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