岳物語
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    評価:
    椎名 誠
    集英社
    ¥ 1,260
    (1985-05-14)

     椎名誠さんの親子の関わりを綴った私小説。『岳物語』を初めて読んだのは高校生だった。当時は勿論、親の目線というよりは子どもの立場で、ぼくの父親も椎名さんのように強くも温かったらよかったのにといった感想であった。うちでは椎名家みたいに父子でプロレスをするなんてことはなかった。

    そして、父親になって『岳物語』を読み返す。読後感がまるで変わった。椎名さんの愛情と思いやりが伝わってくるとともに、子どもが自立する姿への寂しさや儚さといったものが、そこはかとない感触で伝わってきた。親になるということは、うれしくもあり、又、さみしいものである。

    椎名さんがテレビや雑誌の有名人になる時期と重なり、仕事で出かける冒険の話題も興味深い。
    海外ロケで3カ月とか半年くらい自宅不在になりことが多い。仕事が充実して超多忙な日々のなか、息子との限られた時間を充実させるために苦心する姿、息子と釣りにいった思い出をよすがに極寒のシベリアで過ごす様。椎名さんの姿から、ワーク・パパ・バランスのあり方が伝わってくるところが大きかった。

    もちろん、この本は小説であって育児書ではない。でも、『岳物語』は父親の一所懸命に生きる姿が子どもに一番伝わっていることと、逆に、父親の想いは子どもに伝わっていかないという両面がじーんと分かる「最良のパパ指南書」なのだ。


    「椎名さんはまだ岳にステられていないの?」 
    千葉の亀山湖に行ったとき、野田知佑さんがエイヤっと投網を打ちながらそんなことを行ったのをこのごろ私はしばしば思い出すのだ。 
    親と言うのはいつまでも子どもの面倒を見ているような気になっているけれど、実際には子どもは思いがけないほど早く自分の世界をつくり出して行ってあっという間に親ばなれしてしまうものだ、というのが野田さんの考えだった。

    その日の夜、私は妻にこのことの顛末を簡単に話した。
    「やっぱりなあ、だんだん反抗的になってきているよ」 夜更けのぬるいコーヒーを飲みながら私は言った。しかし妻の考え方は違っていた。 
    「反抗、というのではなくて彼の自立、というようなものじゃないかしらね。オトコの自立期になってきているのよ」 妻はすこしコシャクなことを言った。 
    「そうか、自立期か・・・」 反抗期ではなくて自立、というふうに理解すると私はすこしやわらかい気持ちになった。
    | 06:39 | comments(0) | trackbacks(0) |
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    ステップ・・重松清さんが描く父子家庭
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      評価:
      重松 清
      中央公論新社
      ¥ 1,680
      (2009-03)

      重松清さんが描く親子の愛情、葛藤、成長する姿。父子家庭の物語が切なすぎて、ひしひしと胸に迫ってくる。

      ファザーリング・ジャパンの仲間でシングルファーザーがおり、話しを聞いたことはあった。けど、ぼくは何も理解できていなかったと分かった。いつなんどき、自分ごとになるかは分からない。決して他人事の物語ではない。

      もっと今以上に、家族との時間と思い出を大事にしよー。「イクメン」なんて言われるけれど、育児は本来カッコイイものでもなく、ファッションで行うものではなく、日々地道に井となわれるもの。「家族サービス」といった特別なイベントではなく、日常そのもの。普通に、一所懸命に、目の前の人や一緒に過ごす時間を大事。

      小説で、物語で伝わってくるからこそ、素直にそう思えた。

      「一所懸命にかわいがってさ、さっきの親もそうだけど、一所懸命に子どもを守って、一所懸命に子どもを幸せにしようとしている」「でも、幸せっていうのは、そういうものじゃ・・」「ないよな」でしょ、と不服そうにうなづく礼香さんに、つづけて「だから一所懸命に間違えちゃうんだ」と言った。「よけいなことをしなくていいのに、しちゃうから、間違えるんだ」

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      「そういう例って、なかったんですよ。お父さんのいない子どもって学年に一人二人はいるんですけど、お母さんがいないのは、わたしが担任した中では美紀ちゃんが初めてでしたし、今年の一年生でも美紀ちゃんだけなんです。ですから、わたしとしても初めてのケースで、ちょっと対応に困ってて」例。ケース。対応。ふだんなら聞き流せる言葉が、微妙に耳にひっかかってしまう。

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      「保育園のほうが優しいんです。融通が利くっていうか、親の都合を優先してくれるんで」「送り迎えしなきゃいけないだろ」「でも、そのぶん長い時間預かってくれますから。土曜だって預かってくれるし、夏休みや冬休みもないし」(中略)どこの学校でも学童クラブの待機児童がいて、そうでないクラブは予算を削られて次々に閉鎖に追い込まれていることなど、部長にとっては遠いアフリカの国の飢餓問題と同じ距離でしかないのだろう。

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      俺にはできなかったんだ、と義父は嗚咽交じりに言った。仕事仕事で、朋子のことも良彦のこともほとんど覚えていない、それが悔しいんだ、とうめいた。「子どもの思い出すら残せない人生なんて・・おい、むなしいもんだぞ、まったく・・」

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      人生なんだなあ、と思うのだ。ふだんはそんなことは意識しない。目の前の今日を、あたふたしながら生きているだけだ。だが、最近ときどき・・美紀を見ていると、長い年月が流れたんだな、と思う。僕の人生の何分の一かは、美紀と二人きりの暮らしだった。数え切れないほどの今日を昨日に変えていって、いま、僕たちはここにいる。誰かに勝つとか負けるとかではなく、それは、ただ素直にすごいことじゃないか、とも思うのだ。 

      | 05:20 | comments(1) | trackbacks(0) |
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